そういえば
そういえば
と、浮かんでくるはずの言葉が今日はなかなか出てこないや
岡崎体育からBilly Irishへ
なんだかアンニュイな曲の方が今日は似合うような、ぴったり入るのがなかなかない
少しだけ作り話をしたいと思います
小説「そういえば」
そういえば僕は何才で何才の人とお付き合いをしていたんだっけな。
目の前の人は僕の顔を見るなり睨んでくる。
いつのまにか寝ていたようで朝顔が真っ白に光の中で揺れている。
そういえば僕はなんという名前でなんという名前の人を愛したんだっけな。
目の前の人はどこかほくそ笑んで僕をおじいさんと呼ぶ。
僕はおじいさんだったかな。
僕のあの子はどこに行ったのだろう。
そうだ、ゆり子という名前のあの子が、僕は大好きだったんだ。
ゆり子さんは僕をこう呼んだ。
「まどかさん」
確かそんなのが僕の名前だったかな。
夜の月が浮かぶ外へ出たら、ゆり子さんを探しに行くんだ、そうだったね。
山百合がよく似合う君の背中に声をかけたい。
なんて呼べば振り向いてくれるかな。
ゆり子さん、僕だよ......どうして驚いてるの。おかしいな、ゆり子さんじゃあないな。ゆり子さんはどんな顔をしていたっけな。
どんな声だったかな。
ああそうだ、僕は大人になって年寄りになってしまって80才だ。
ゆり子さんは死んでしまった。
そうだ、そうだ。星が綺麗だからもういいや、僕も。もういいや。
天国なんてあるのか、地獄なんてあるのか。
あの子はまだ僕の胸で泣いてくれるのかな。
そういえば僕は何才で、何才の人とおつきあいしていたんだっけな。
ミチルちゃんだ。僕はミチルちゃんとお付き合いして結婚して子供ができて息子が2人。
そうだっけな。
ミチルちゃんは僕より3つ年下のえくぼがかわいい賢い女の子だったね。
おじいさんと呼ぶ君がそうか。
「ねえおじいさん、ゆり子がきたわよ」
何言ってるの、誰だいそれは。
僕の奥さんはミチルちゃんだろう。
笑ったつもりが泣いていたみたい。
「何言ってるの。ゆり子よ。おじいさんの娘じゃないの」
なんだって......?
似ても似つかない僕の娘だ?
この子はゆり子さんじゃないよ。
ゆり子さんじゃない。
「おとうさん、眠っていいのよ」
そうだね疲れた。
もう、疲れたんだ。
「まどかさん」
君はやっぱり、死んでしまったのかな。